「おはよう」


「能取、おはよう。今日が最後だな」


千代田が仙道の机に手をつき、力なく笑った。


「聞いてくれ。昨日お母さんに叩かれたんだ。ひでーよ」


「そうか、ははっ。俺は正座させられ説教だ……どっちが正しいのかわからなくなってくるぞ……」


千代田が頭を抱え、自嘲気味に笑う。


「千代田、お前は間違ってないよ。自分の目的をしっかり持つんだ」


「そうだな。ありがとう……」


一時は意見が合わず大変なことになったけど、二人とも普通に話している。


「卒業式、このまま進めるのかね?いない人はどうするんだろうな。合唱のバランスがガタガタ、練習してないから卒業証書の授与も上手くいかない、自分の娘が式に出れない……。最悪の式になるぞ」


千代田が苦い顔で黒板を見ながら言った。
黒板には、いない人の席は開けろと書かれている。並ぶときは名簿順で男女混合だ。


「今日は流石にないだろうな」


「ないと思いたいが、言い切れないな」


「卒業式だし椅子投げるくらいのことしてもいいんじゃないか。これで最後だろ?」


苦しさと淡い期待が混ざった千代田と期待すらしなくなった仙道にそう言うと、二人ともぽかんとする。


「能取、正気か?」


「うん。卒業すれば、先生は生徒を従わせることができない。ぱーっとやろうぜ」


「いいかもしれない」


珍しく仙道が笑った。


「やったことには責任持つよ。よし、死なせない程度に椅子を投げよう」


「仙道、お前もか……。まあ俺もやるが」


千代田は申し訳程度に呆れた後、悪戯っぽく笑う。
決まりだ。


「なんなら今から暴れて通報してもらおう。それで警察に見せよう」


「俺がスマホで通報するから、二人は暴れてくれ」


「了解」


仙道は敬礼した後すぐにドアに向かった。