靴を引きずるようにして歩く。靴下を脱いだのに重く感じた。


戻ってきたところで先生が服装検査をする。


「靴どうしたんですか?」


床に水が染みだす。俺の靴はびちょびちょに濡れていた。


「床が水浸しで……うっかり窪んだ水溜まりを踏んでしまったらこうなりました」


一番近い男子トイレには、床に窪んでいるところがある。床を水浸しにし、足をびちゃびちゃにすることで靴下を履かない理由を作った。


「能取、もう上靴も脱いだ方がいいんじゃないか?」


千代田が靴を指さした。


「……澤谷さん、スリッパ持ってきて」


澤谷が教室を出ていった。


「霧生さんはこの新聞を敷いて、靴を乾かして」


「いやいいですよ。自分がやったことなんで……」


「靴貸してー」


断ろうとしたけど、霧生は靴を持っていってくれようとする。ここで強引に断るのも霧生の立場が危ないかもしれない。せっかく危機を乗り越えたんだから、ここはおとなしくしよう。
かかとを上げ靴を脱ごうとしたときに、先生は霧生を殴った。


「貸して、とはなんですか。敬語を使いなさい」


理不尽だ。
霧生はふらふらしたものの倒れることはなかった。


「先生、体罰は最悪のやり方です。言葉で指導することができないと言っているようなものです。そんな先生に、生徒は従いません」


先生が苛立った様子でポケットをあさり始めた時、千代田が言った。
先生はそれ以上何もしなかった。


服装検査は厳しかったものの、誰一人死ななかった。
もしもあのとき靴下を変えなかったら、千代田が助けに入らなかったら、霧生が犠牲になったかもしれない。