卒業式が終わり、俺たちは昔話をしていた。千代田の提案で人がもう少し少なくなるまで待っていた。


「あいつらまだ帰らないのかよ。俺らの大事な卒業式だぞ。用が済んだら帰れよ」


「あいつらにとっては、話題になる事件の生き残りの卒業式なんだろう。まあ他人の卒業式だからな」


千代田は断り切れずにカメラを向けられた女子を見ながら言った。


「もう行こう。ここ日が当らなくて寒い」


仙道が身震いする。


「そうだな」


声をかけてくる大人はひたすら無視しながら進む。それでもしつこく追いかけてくる影があった。なんなんだよと思いながら、二人に助けを求めようとした。


「能取君!」


聞き覚えのある声だった。恐る恐る振り向くと、社会の先生がいた。取材じゃなかったのか……と安心したと同時に知っている先生をひたすら無視してしまい、恥ずかしくなった。


「卒業おめでとう」


「ありがとうございます」


この先生は生徒に何もしていない。あのときは学校にいなかったのだ。この先生もいない間ひどい目にあっていたけど……。


「人のことを信じられなくなったかもしれない。けど、裏切らない人は絶対にいるんだ。信じられる人を見つけられるように祈ってるよ」


先生は悲しそうに目を細めた。心配はいらない。


「大丈夫です。もういますから。あいつらとは卒業しても会うことになるだろうし、困難も乗り越えていきます」


悲しそうな先生とは反対に思い切り笑って見せた。先生は安堵の息をもらし、俺を見送る。


「お前の持ってきたカードを実験に使った先生じゃないか」


「うん。なあ、四月の一日に集まらないか?」


「うん。旅行のお土産も持っていくから袋用意するんだよ」


「エイプリルフールだな。嘘をつくから見破れるか試してやろう」


千代田がにやにや笑って俺を見てきた。持ってくるのは仙道のお土産だけでいい。俺は苦笑いする。


心の中では、そんな平和なやり取りに安心していた。俺らはゲームの対象外だったが、同級生を……大切な人を失うかもしれないと恐れる気持ちは同じだった。もう二度とあんな思いをすることがないように……。


日差しがいつの間にか強くなっていた。心の中の冷たさをこれから生きていくために、強引に打ち消しているんじゃないかと思った。
囚われないけど忘れない。