「…雪人。」

今度は僕の手をぎゅっと握って、香春さんは僕を呼んだ。
香春さんの爪は、綺麗な桜色をしている。




「一人でも、しっかり頑張るんだよ。…素敵な人と出逢って、素敵な思い出いっぱい作って、素敵な大学生になって、素敵な大人になるんだよ。私はずっと…雪人の味方で、雪人のお姉ちゃんだから。」


一言一句、すべての言葉をゆっくり噛みしめるみたいに、香春さんはそう言った。
…泣きそうな顔で微笑んで。
言うだけ言うと、またくるりと向きを変えて、僕の3歩先を進んだ。




帰り道に、香春さんの匂いがみちる。
雪が香春さんの頭に舞い落ちる。




香春さん、僕は。
僕は、馬鹿だ。



どうして今頃気付いたんだろう。
どうして今まで、気付かなかったんだろう。


香春さんは、せっかちでしっかりもの。
香春さんは、春のような匂いがする。
香春さんは、優しく笑う。
香春さんは、世界一幸せそうに食事をする。


香春さんは、きっと。
きっと、僕のことが好きだ。




そして僕は。
僕は、香春さんが好きだ。





ルマンド色のコートに、次々と大粒の雪がくっついては消えていく。
黒いアスファルトにも、白い雪は落ちて消えていく。



5歩前を歩く香春さん。