ご飯は皆が揃ったら。




けれど、突然バッと振り返りこっちに腕を伸ばす。
うっすら筋肉の浮き出たたくましいそれが、一直線にコップへと向かって。

「・・・ありがとう」

ゴクゴク小気味いい音を鳴らしてお茶は一気に飲み干された。

思わぬ行動にポカンとしてるあたしの横をすり抜け、シンクまでコップを持っていく。

「あー、洗いますので置いといて頂ければ」
「ああ。よろしく・・・」

ぺこ、と軽く頭を下げて歩いて行く尾澤さんから、ほんの少し煙草の香りがする。
ここは喫煙どうなってるのかな。
でも彼なら、高校生のことを考えてきっちり分煙してそうだ。

チーフ時代の経験と一くくりするのはおこがましいが、人を見る目は割と養われてきた。
それ故に、醸し出す自分への印象も嗅ぎ取れる。

あの二人。
今のとこ、めちゃくちゃあたしを疑っている。

疑惑の種類はおそらく、あたしが寮生目当てでここに来たんじゃないか、というとこかな。
だから透くんとすんなり仲良くなっていたことも怪しんでいる。
環くんの紹介っていうのも、あの子から人気者が集まってるって聞いたんだとか、写メでも見たとか、大方そんな気がする。

けれどその疑いを表立ってぶつけないのは、さすが20歳を超えた大人。
ひとまず受け入れた素振りを見せてくれただけでも安泰だ。
あとは行動できっちりとわかってもらえばいい。

誰がどんな顔をしていようが、どんな生活をしようがどうでも良いの。
あたしは別に寮生に興味はない。

とにかくしっかり働いて・・・

まず車のローンを返す。当面の目標はこれである。

可愛いイトコに着せられた、大凶借金女の汚名を晴らすためにも。