ご飯は皆が揃ったら。




「もう透と仲良くなったんだね」

一つ目のコップに注ぎ終わったところで道場さんが呟いた。
抑揚のない乾いた声は、ここで事件が起きるたびに漏れているんだろうか。

「素直で良い子ですね。イマドキの高校生なんて、環くんくらいしか知らないんでどう接しようかと思いましたが、一安心です」
「・・・そう。まあ、いろんな奴がいるから」
「ええ、これから会うのが楽しみです」

ばちっと深く瞬いた瞳は、あたしの中に何かを探ろうとしている。
どうぞ、と差し出したコップは受け取らず、道場さんはくいっと肩をすくめた。

「俺バイト行くわ。駿佑、あとよろしく」
「えっ、あ・・ああ」
「西崎さん、もう今日から働くの?」
「いいえ、正式には次の月曜日です。荷物など運んで、住み込むのは日曜からですが」
「じゃあ、そん時改めて。またね」

一応再会の兆しは見せながら、道場さんが背を向けて去っていく。

残された尾澤さんはいかにも『置いてくなよ!』といった感じで唇を尖らせ、そわそわと身じろぎを始めた。
時計を見て首を傾げたり出口を見やったり。
手持無沙汰な様子が、ここに放り出された時のあたしみたい。

「座りません?」
「あっ、はい。・・・いや、俺もちょっと課題あるんで、部屋戻り、ます」
「同い年みたいですし、タメ口で良いですよ」
「そ、そうか。じゃ・・・また」

落ち着かない感じから挙動不審手前まで変化し、尾澤さんもここから出て行こうとした。