やけに張り切った様子の透くんについて行き、外に出て畑までぐるっと回る。
改めてじっくり眺めると、ちゃんと透くんの名札も見つけられた。
「俺はきゅうり育ててんの。そろそろ実も出来て良い頃なんだけど、なんか成長遅くてさ」
「肥料あげてます?」
「へっ、肥料?わかんない」
すっごいきょとん顔。こりゃ寮母やることリストの中に、畑の世話も入れた方が良いな。
大体、違う種の野菜をこんなに近くに植えて良いんだっけ?
栄養奪い合って良くないんじゃないのか・・・なんてこと、キラキラした目でホースを持ってきた透くんには言えない。
「畑を育ててるのは高校生組だけですか」
「うん、加純さんたちはクールだからあんまりこういうの参加しない。研究に忙しくて手も回んないだろうしね。
あ、でも駿佑《しゅんすけ》さんと友史《ともふみ》さんはよく声かけてくれるよ」
「まだどの方だか当てはまりませんが・・・覚えておきますね」
久野さんのおかげで、加純さんていう単語だけは耳に残ってるけど。
結局まだ姿を見せそうにないし、まとめると『約束の時間に現れられないほど忙しい、クールな寮長』かあ。
勝手なイメージだけど、綺麗に七三分けして眼鏡かけて白のカッターシャツ着てそう。
「てかさー塔子さんも敬語使わないでくんねえ、俺普段そうやって話されることないから落ち着かない!」
「そう、わかった」
「切り替え早!」
ははっと豪快に笑いながら楽しそうに水を撒く透くん。
今はきっと、なんでも楽しさに変換できるんだろう。
無邪気な笑顔は、陽を浴びて飛び散る飛沫よりもずっと輝いて見える。

