「誤解させるような行動してたのは謝ります、ごめんなさい。でもあたし本当に、寮母として雇われたんです。
西崎塔子、環くんのイトコです。お話は何も聞いてませんか?」
怒りに一番必要なのは冷静な返し。
しっかりと相手の目を見て、でもけっして威圧感や怒りを感じさせないようゆっくり話す。これが数々の取引で学んだこと。
すると彼は一瞬面食らった表情を見せた後、だんだんと目を開いて行きこう呟いた。
「・・・借金してるっていう・・・?」
環くーん。
「ちょっと語弊がありますねー、車のローンだけです。でも、環くんから大方聞いてはいるんですね?」
「あ・・・わ、わりい!」
とりあえず苦笑塗れに呟いてみると、少年はパッと手を離し、一歩引いて謝る。
そんなに悪い子ではないとみた。
それにしても、凄い出で立ちだなあ。
金髪ピアス、パーカーに腰パンにチェーンつけて・・・うん、完全ヤンキー。
この学校は制服じゃないからわからないけど、多分高校生組かな。
「いいえ、私も悪かったですから。改めて、自己紹介しても良いですか?」
「う、うん」
「西崎塔子です。正式には来週の月曜日から、ここで働かせて頂きます。今は久野さんにここの案内をして頂いて、環くんが戻るまで待ってました」
「はあ、どーも。よろしくっす」
先ほどの勢いはどこへやら、腰を曲げてポケットに手を突っ込み、チラッとあたしを見上げる少年。
けどそれ以上言葉が続いてこない。
「お名前教えて頂けますか?」
仕方なく私から切り出すと、彼は少し姿勢を正し、
「江波透《えなみとおる》です。環と同じクラスっす」
と答えた。

