ご飯は皆が揃ったら。




山羊の相手はさすがに難しい。
とりあえず、今年は農業科の寮生はいないと聞き、空っぽの小屋を眺めてホッとする。

ちなみに、畑の方は高校生組が野菜を育てているらしく、たくさんの苗が植えられていた。
しかもそれぞれに名前の札がついていて、環くんのも発見出来た。
あれはトマトだな、なんとも微笑ましい。


こうして寮内を渡り歩き、最後にあたしの部屋に連れて行ってもらった。
1階の廊下を突き進んだ一番奥の、鍵付きの個室。
今までの内観からして、期待と不安が混じったようなドキドキを携え、ドアを開ける。

薄目の視界でもハッキリ飛び込んできた光景に、くらりと眩暈を覚えた。

10畳はあるだろう部屋の中には、ダブルだよね、というくらい広いベッドに大型のクローゼット。
快適間違いなしの冷暖房エアコン。

薄型テレビにBlu-rayプレーヤー、おそらく前の寮母さんのリクエストと思われるミシンまで。
トイレと浴室、洗面所まで兼ね備えられたのを目にした時の、いいようのない敗北感ったら・・・

チーフ時代にあたしが借りてた部屋より、何倍もレベル高いんですけど。
光熱費の心配など考えずここを使えるなんて、まずあたしこそ気を引き締めなければ。
贅沢云々じゃなく、空しさで押し潰されそう。

住み込みだからと多すぎなくらいの荷造りをしてしまったけど、これなら余裕で置ける。
そこだけは良かった、と一息つくと、久野さんが突然項垂れ、はあー、と息を吐いた。