余りの勢いに呆気にとられれば、環くんも息を吐いて椅子に座り直す。
それから思い出したように瞬きをし、ニヤッと、今までとは気色の違う笑みを浮かべた。

「そういえば」
「ん?」
「前の寮母さんがポロッとこぼしてたなあ。さすが私立はお給料も違うわぁ~って」

この子・・・無邪気な顔して金に物を言わせる気では・・・

「休暇取って海外旅行とか行っててお土産もらったよ」
「うっ・・・」
「月々の車のローンなんて、簡単に支払えちゃうかもね」
「ううっ・・・」
「し、か、も。周りにいるのは皆イケメンで、心やっさしい男子高生と大学生!目の保養になるな~。
今までの酷い扱いとはえらい違いだ!心身ともに楽になるぞ」

なんだか弱みを握られた気持ちになり、ひねくれた心が突っぱねる準備をする。

けれど頭の上でポンッと軽快に響く音が、それを阻止した。
見た目よりもずっと大きく感じる手のひらが、じんわりとあたしの意地を溶かす熱を送る。

クビになった真の理由まで未成年の彼に話した叔母さんを恨むべきか、感謝するべきか。
「今までよく頑張ったじゃん」という、心の奥底で求めていた言葉をかける従姉弟に、不覚にも視界が滲んでくる。

「少し休んだことだし、もっかい頑張ってみよーよ。ちゃんと塔子姉自身を、認めてもらえる場所で」

高校生に職を紹介されるってどうなのよと言う気がしないでもないけど、とにかく動いてみないことには始まらない。

「うん・・・やって、みようかな」

こうしてあたしの挫折は意外にも早く救いの手が差し伸べられ、第二の人生がスタートしたのだった。