「あれ、乗り気じゃない感じ?」
「いやね、仕事自体は良いんだけど。あたしスポーツ栄養士の資格までは持ってないよ」

今までの仕事上、基本的な資格は取って来たけど、さすがに専門的な部分までは入り込んでいない。
将来を夢見る子たちが集まるんだから、ただ食事を作って出すだけじゃ事足りないだろう。

試合前用のメニューを工夫したり、下手したら個別で変えたりしなきゃいけないんじゃ?
ボクシング部とかだってきっとあるもんなあ。

うーん、と思い悩んで見せると、環くんはあっけらかんと笑い出し、手を振った。

「そーいうの要らないよ、ただ美味しいもん作ってくれればオッケー」
「だって減量メニューとか」
「ないない、今カップ麺で済ませてるくらいだしさあ。それに俺等の寮は、全員が体育科なわけじゃないから!バイト三昧な大学生もいるよ」

なるほど、そこまで踏み込んだ行為はしなくていいらしい。
となれば、掃除洗濯のあたりはまあ問題ない。
何人分かはまだ不明と言え食事を作るということ自体も、一般的なメニューで良いなら可能だろう。

寮母さんかあ。
今までとは畑が違い過ぎる職種だ。
でも、周りが青春真っ只中の学生たちなら、裏に含まれる悪意の笑みや憎悪、汚い駆け引きを見なくて済むのかもな。

ああ。
あたし結構引きずってる。
前に進むチャンスを与えられたのに、アイツらのニヤけた顔に邪魔されるなんて。

思わず手元に視線を落とせば、断られると勘違いしたのか環くんが慌てた様子で身を乗り出した。

「お願いだよ塔子姉!皆もう限界なんだ。まともな飯食べてなくて幻覚見えそうな奴までいるんだよ!」
「そんな大げさな」
「ホントだよ!皆塔子姉以上に死んだ目してんだって!」
「環くん、微妙に気になってたんだけどあたしのことたまに馬鹿にし」
「塔子姉がここで本気出さなかったら 皆どうなると思ってんだよ!!」

いや知らないよ。