「そんな顔でお客様の前には決して出ないで下さいね」
私は今は接客はしない。それが分かっているのにそんな事を言ってきたという事は、私はきっと相当酷い顔をしているんだ。
自分でも、分かってる。
だって、開店前のあの話……全然納得出来ていないから。
こんな時に引き抜きをしたジャスティスにはもちろん腹がたっているし。この店を見捨てて裏切って行った輝さんと竜馬さんの事も許せない。
だけどどうして、青葉や他の人たちは何も言わないんだろう。
ティアーモに入って一番日の浅い私ですら、こんなにムカムカもやもやしているというのに。
たぶん、それが全部顔に出ちゃってるんだ。
「スイさんに一つ、頼まれて欲しい事があるんですが」
湯田さんはそう言って私を事務室へ招き入れた。
事務室へ入ると、湯田さんは自分が仕事に使っている机の前へ。そして暫く引き出しをゴソゴソすると、中から封筒を二つ取り出した。ノートの大きさぐらいのA4の何の変哲も無い茶色い封筒。
「これを、今からある人たちへ届けて欲しいんです」
こんな時間に誰に届けるんだろう?
時計を見ると一部営業が閉店し、もう日付は変わっている深夜だ。不思議に思いながら差し出された封筒を受け取ると、表の角に小さく名前が書いてあった。
一つは『輝』、一つは『竜馬』