有馬はどんな気持ちで昨夜を過ごしたのだろう。

そばにいてあげたかった。

何もできなくても、ただそばに。


有馬が人から奪えるのは、たった1日分の命だ。

だからたとえあの女性が亡くなったとしても、それは有馬のせいじゃない。

有馬が命をもらわなくても、彼女は近いうちに亡くなる運命だったのだ。


けれどたぶん、そんなことを言ってもなんの慰めにもならないんだろう。

有馬が彼女から、残り少ない命を、その中の貴重な1日分を奪ったことに変わりはないのだから。


残酷な事実に有馬だけでなく、わたしも打ちのめされていた。

どうしてあそこで出逢ってしまったのだろう。


あの時あの女の子とぶつかりそうにならなければ、女性とすれ違わなければ、パスケースを拾わなければ、こんな悲しみを有馬が背負うことはなかったのに。



猫のおっさんの言葉を思い出す。


運命に、情なんかない。


その通りだと思った。


誰が決めたかも、本当にあるのかすら怪しい運命という名の予定を、心底恨む。

有馬を傷つけた不気味でつかみどころのない、大きな力を恨み続けようと決めた。