押し倒された状態から、優羽は必死に抵抗を試みていた。

それでも、鍛えた経験などなにもない女子が、男子の力に敵うはずもなく…



「あれ、諦めた?…はは、やっとおとなしくなった」


「っ…!」



込み上げていた涙がツーっとこぼれる。


ぼやけてはっきりとは見えないが、顔が近づいてくるような気配がする。


ギュっと目を閉じた瞬間、誰かが叫ぶような声がした。

そっと目を開けると、坂井は声のした方を向き、不機嫌そうに声をあげる。



「誰だ?邪魔すんなよ」



その手が優羽の頬を撫でる。


でも、そんなことより、叫んでいた声の主を見て、驚きが隠せなかった。



(神田…さん?)



最初、優羽は自分にとって都合の良い幻覚を見ているのだろうかと思った。

そうでなければありえない、と。


しかし、息を切らしながらこちらを睨み付けている黒髪の男性は間違いなく、神田玲也その人だった。