玲也はさらに試食を差し出しつつ、こっそり少女の表情を伺う。


リンゴジャムやブルーベリージャムを食べても、感嘆の声を漏らすのは母親ばかりで、彼女に変化は見られない。


その瞬間は続けてあんずジャムを渡した時に訪れた。



(お──)



あんずジャムを口にした瞬間、わずかに…本当にわずかにだが、彼女の表情がフワリと和らいだのを玲也は見逃さなかった。

何となく嬉しくなる。



「うーん、どれも美味しいんだけど、全部買うと食べきれそうにないから三つくらいに絞ろうかな」



全て試食し終えた母親は少し考えはじめる。



「桃が美味しかったな…あとはキウイ…それと…」



娘は特に口をはさまず、母親を待っていた。
恐らく自分の意見を積極的に口に出すタイプではないのだろう。


そんな様子を見た玲也は、思わず言っていた。



「あんず…」


「え?」


「ああ、すみません。あんずジャム、彼女が気に入っているように見えたので…」