あんずジャム



優羽は服のすそをギュっとつかんで心を落ち着かせ、改めて言う。



「あの、あ、あんずジャムを買いたいんですけど…」


「はい。お持ち帰り用ですね。少しお待ちください。」



今度はちゃんと言えて、ホッとする。

それから店内を見渡した。

店は、優羽と同じくらいの女の子たちや、スーツ姿の男性等でわりと賑わっている。



「お待たせしました」



この前と同じ、可愛らしい紙袋に入れたジャムを店員がカウンターに置く。

優羽は慌てて財布を取り出すと、千円札を渡した。


渡しながら、こっそり彼の胸元についた名札を確認する。


『神田玲也』

それが彼の名前だった。



「…あの、お客様?」



声をかけられて店員──玲也の顔を見ると目が合った。



「お釣りです。お確かめください」


「す、すみません…」