オズが“はっくしょん!”とくしゃみをして私に言った。


「…今日のところは出直す。このことは絶対ウサギに言うなよ。」


ギン、と睨まれ、私は頷くことしかできなかった。

くるりと私に背を向けて歩き出す彼に、私は、はっ!として呼び止める。


(そういえば、私、昨日助けられたお礼をまだ言ってなかった。)


「オズ!」


ちら、とこちらを向いた彼に、私は続けた。


「昨日は助けてくれてありがとう…!」


「…。」


オズは何も言わずに、ぱっ、と私から視線を逸らす。

“今さらか”と言わんばかりの態度に、私は尋ねた。


「どうして私を助けてくれたの?」


オズは、まつげを伏せて私に再び背を向ける。

何かを考え込むような仕草の後。

彼は小さく唇を動かした。


「さぁな。」


コツコツ…、と遠ざかって行く背中。

残された言葉からは、彼の心は何一つ伝わって来なかった。


(…不思議な人だな。…たぶん、悪い人じゃないんだろうけど…)


ウサギさんとオズの関係もわからないままだ。

まだ、私はここの住人たちのことを深く知らない。