「そこで。いっそバカになってみようかなと」

「……どうして」

「ただの思いつき」


……思いつきなんかじゃないでしょ。


「最初は卒業するまで全員騙してやろうと思ってた」

「……だます?」

「適当に合わせて。女の子とは距離おいて。誰とも心通わせるつもり、なかったんだ」

「芝田っ……」

「だけどこの学校には、イイヤツが多くて。たまにオイオイって思うこと言うヤツもいるけど、根はみんな真面目で。気づけば中学生活楽しんでた」


わたしは芝田のなにを見てきたんだろう。


「俺のハイパーダサい筆箱を見た薙乃ちゃんてばさ。ギョっとして。そして笑ってた」

「あまりにもダサかったからね」

「鉛筆削っててもガン見してきたしね」

「いやアレはみんな見てるよ」

「やっぱり薙乃ちゃんは笑ってた」

「だっておかしいでしょ。ナイフで鉛筆削るってどの時代から来たんだって思うよ?」

「バカにした笑いじゃなかった」


(えっ……?)


「かわいく笑ってた」

「なっ、」

「その笑顔をみて俺は恋に落ちた」

「……恋……?」