「ただいま」




母さんは桜が死んでから心を閉ざしてしまい、あれから笑っているところを見たことがない。




「母さん、ただいま」


「……ああ、おかえり」




声が枝のように細く、弱々しい。




「なに、してるの?」




「桜がね、持ってたっていう遺品、返し忘れたとか言うからね…。見てたの」



返し忘れた?



「ちょ、俺にも見せて…!」




俺は母さんの近くに寄った。
そこには壊れた携帯と汚れたキーホルダー。そして日記の続きと見られる紙がボロボロになって置いてあった。





「このキーホルダー…桜の誕生日に買ってあげたものなのよね…。それと携帯…」




母さんは日記には注目していなかった。
俺はボロボロになった3枚の紙を持ち、自分の部屋に行った。



「桜…」




俺はじっと薄れて消えかけている文字を声に出して読んだ。