そうして迎えた結婚式当日。
後援会の反対を突っぱねて結婚した秋の兄。
その挙式は、親しい友人たちのみのこじんまりとした式だった。
好き勝手に生きてきた秋にかわって、今の設楽の家を支えているのは兄だ。
秋はゆっくり歩きながら兄に近づく。
「おめでとう」
「ありがとうな」
はにかんだ兄の笑顔。顔を合わせるのはお盆以来だ。
お決まりの会話の後、少しの沈黙。
お互い気まずいのだ。
兄が困ったような顔をして、口を開いた。
「悪いな。お前のとこにも話がいってるんだろ?」
申し訳なさそうな兄の言葉に、秋は下を向いたまま首を振る。
「めでたい日なんだから、辛気臭い話はやめようぜ」
秋は兄の背中をバンと叩き、友人と話す新婦の元へ送った。
瞬間、新婦は晴れやかな顔になる。
売れっ子ではないが、そこそこにレギュラー番組をもらえている女子アナだ。
一般家庭出身の彼女。
だからこそ、後援会も両親も、兄の結婚を反対したのだ。
膨れ上がった家の借金をどうにかするためには、資産家の娘と結婚してほしかった。
資産家でなくても、せめて銀行員の娘を、というのが彼らの要求だ。
なんで親の借金を俺たちが引き受けなくちゃならないんだ、と秋と兄は真っ向から反抗したが。
その反抗期は今も続いている。
兄は反抗したまま、今日結婚した。
一歩引いた場所で友人と話す新郎新婦を見つめる。
幸せそうだ。きっとそれが一番なのだろう。
秋も、資産家の娘とではなく、好きになれた人と結婚したいと思っている。
きっと設楽の家系も、自分たちの代で歌舞伎の屋号も潰れるのだろう。
親に悪いと思っているかどうかは微妙なところだ。
家出同然で飛び出した秋を、未だに気に掛けてくれるところはありがたく思うが。
幸せそうな兄と義姉の姿。
その光景が、秋にはひどく遠いものに思えた。


