意外だ。とても、意外。
正直、秋は自分以外の誰かと暮らしたら喧嘩ばかりになると思っていたのだ。
どうしてみのり相手だと長い時間一緒にいても大きな衝突が起きないのか。
その理由は。
「期待してないからだろうな」
「なんです?」
秋の唐突な独り言に、みのりが反応した。
ソファに腰掛けた彼女は分厚い写真集を読んでいる。
「いや、相手に期待してないと、ここまで同居はうまくいくもんなんだな、と感動してさ」
「あぁ」
なるほど、とみのりは返す。
膝に乗せた写真集の、白黒の写真に目を落としながら「なるほど」ともう一度つぶやいた。
「確かに、設楽さんって面倒くさい家事やってくれるので、それ以外は私がやろうって思えますね」
「面倒くさい家事ってなんだよ」
「風呂掃除、洗い物、トイレ掃除。あ、設楽さんって掃除好きなんですね」
「別に好きじゃない」
好きではないが、綺麗ではないものがそのままになっているのが嫌なのだ。
と言うよりも、汚れてから一気に掃除して、埃だらけの雑巾や汚いスポンジを見るのが嫌なのだ。
だからこまめに掃除をしているだけだ。
その旨をみのりに伝えると、みのりはなぜか目を輝かせた。


