残されたのは、ぽかんとしたみのりと、面白くなさそうに手の中の鍵を弄ぶ秋。
みのりが状況を把握できていないことをいいことに、秋はみのりの肩に手を置きこちらを向かせる。
「あんたの鍵も俺が預かるからな」
「・・・え?私の家の鍵ですか?」
「あぁ」
「そ、それじゃ私この家に帰れなくなりません?」
「何か問題でも?」
「すみませんでした」
みのりは秋の圧に屈した。
これはもう、秋の言うことを聞くしか道はないということを本能で感じたのだ。
生存本能だ。
秋は手の中の2つの鍵を眺め、ようやく表情が和らいだ。
「よし、これからはホームレスにも酔っ払いにもヤク中にも声をかけるな。約束できるか?」
「はい」
病人は、命に関わる場合もあるだろうから見逃してやる。
でも俺に連絡はしろよ、と秋はみのりに言う。
私はどこの箱入り娘だ、とみのりは思ったが、彼女は反対意見など言えなかった。
そうして、2人は騒ぎだけ起こして、みのりの家を後にした。
夜が過ぎ去り翌日。
新しい朝がきた。秋の二日酔いはようやく抜け、今日はスッキリとした目覚めで起きられた。
いい気分で寝室を出てすぐ。
目に映った光景。
自分の家のバルコニーで、大きくなったシソをむしり取っているみのりがいた。
一瞬、不法侵入で警察に突き出そうかと思った。
あぁ、そういや昨日、ここに住めと俺が指示したんだったな、とすぐに思い出したが。
昨日の俺は狂っていたな、と我ながら思う。
冷静になった今、どうやってみのりを追い出そうかと秋は考え始めたのだった。
勝手な男である。


