弾かれたように振り返ったみのり。
その顔はいつもとは違う、軽いメイクをしただけのすっぴんに近い顔。
女は化粧で変わるとは思っていたが、みのりはあまり違和感がなかった。
雰囲気が変わらないからだろう。
化粧をしててもしてなくても、どこかぼやぼやしている、幼い女性。

「大丈夫、ではないですね。久しぶりです、設楽さん」

「久しぶり。で、何?具合悪いの?」

こんな夜に病院もやってないし、薬局でも行くか?と声をかける。
あまりにもひどい症状だったら急病診療所でもいいが、みのりの様子はそこまで切羽詰まっているとは思えなかった。
みのりは携帯片手にぼんやりしている。
秋の話も聞いているのか怪しい。

「いえ、具合がどうとかではなくて、その」

「何?」

どこかバツが悪そうに目を伏せるみのり。
早く帰りたいのにはっきりしない様子。
苛立つ秋に気づいたのか、みのりが視線を彷徨わせながら口を開く。

「その・・・ムが」

「は?」

まごついたみのりの口調に、思わず秋は怒鳴るような口調になってしまった。
みのりもムッとした表情になり、おもむろに秋の肩を掴むと、ぐいっと顔を近づける。
そして耳元で、小さめだがはっきりとした口調でこう言った。

「ゴムが、中に、入っちゃったんです」

この言葉を理解するのにしばしの時間を要した。
ゴム。
ゴムとは、輪ゴムのことか?髪ゴムのことか?
しかし彼女が立っていたのはラブホの前なのでコンドームのことだろうな、とまで考えて5秒。
そこから「中に入っちゃった」の意味。
頭ではわかっている。
わかっているが、そんな赤裸々なことを俺に言われても「どうしようね」としか言いようがないというか。
そんなのは致した相手に言って責任を取ってもらえ。
というか相手、下手すぎじゃないか?
なんで女性の中にセーフティーなあれを置き去りにするのだ。
全然セーフになってないし、中で一体何が起こって置き去りになったのだ。

微妙な表情をしている秋に、みのりもはぁ、とため息をつく。