「ごめん、用事思い出した」

暗闇の中。
きょとんとする3人の顔が見える。
マオちゃんとしてはショック療法のつもりだったのだろう。
でも、みのりにはなんだか無理だった。

財布から中身も見ずに数札取り出し、机の上の滑らせるように投げる。
そのまま一目散に、できるだけ音を立てずにバーを後にした。
店の外はすっかり暗くなり、会社帰りの人がまばらに通り過ぎていく。

たいして動いてもいないのに息切れする。
ふらつく足で自販機の横にしゃがみ込む。
なんだろう。

マオちゃんも、何万光年先の惑星の住人だった。
みのりだっていい年だ。少女時代はとうに過ぎて、セックスに夢見てる年頃でもない。
初めては好きな人と、だなんて思ってもないし、いずれは私にもそういう時期が来るのだとは考えていた。
いや違う。私はあのナンパしてきた男性二人がどうこうじゃない部分でショックを受けている。
マオちゃんだ。今までずっと隣で笑って支えてくれていたマオちゃんが、みのりにはわからない思考回路を持っていたことにショックを受けていたのだ。
隣の惑星で、それなりに相性が良く、仲よくやっていけると思ったのに。
宇宙科学が発達して改めて計算し直したら、マオちゃんの惑星からの光は何万光年先から来ていたものだと発見したのだ。
ずっと近くにいてくれたと思ったのに。現実は、ずっとずっと遠い場所にいた。
それがわかったところで、みのりは宇宙船を作り、マオちゃんの星まで行く勇気はなかった。

数十分、いや、数時間近くみのりはその場に立ち尽くしていた。
茫洋とした目をしていた。
「変わるべき時期なのかもしれない」と、ぼんやりと、みのりは思った。