あれからもう夕方になった頃
中村先輩と薫さんがホールに戻ってきた。

「先輩、おかえりなさい!!」

「どうでした…?」

みんな、おそるおそる聞いた。

「手術をして命に別状はない。
ただ…
文化祭には間に合わない。」

「え?…」

怪我を追った子は主役級までは行かないが、主人公との重要な絡みがあるため
その子なしで文化祭を乗り切るのはとても難しかった。

「え、どうするんですか?!
あのシーンは…あの、脚立のシーンは誰かが代わりにやるってことですか?」

「そうなる…」

中村先輩を含め、役者全員が苦い顔をしていた。


二、三年生にとっては去年のこともあり、掛けている作品だから大切なはず。

代わりの役者なんて誰が出来るのか…

みんな不安になっていた。


「それに、みんな思い出して。
あのシーンは中村と2年生だけのシーン。

それ以外のみんなは着替えるところだよね?」

薫さんの話でみんな、もっと焦り始めていた。


「あ、あ、あの…

僕、代打します!」


ーーえ?…


小野くん?…


「え、翼…
でも、あんたは脚本家でしょ?!」

「姉さん、この作品にかけてるのは
役者だけじゃない、裏方も脚本もみんな大切なんだ。

それに、僕は脚本を書いた人だよ。
セリフなんて嫌でも覚えられる。

とにかく!
僕はこの作品を成功させたい!」

小野くんの力強いこの作品への思いが伝わった。

さっきまで、張り詰めていた空気が
少し和らいだ気がした。

ホール中に広がる小野くんの声は
きっとみんなに届いてるはず。


「よし!!
小野!!

よろしくな。あいつにも伝えとく!!」

中村先輩の承諾を得て
小野くんは部員のみんなに囲まれて
ありがとう、ありがとうと言われていた。


私は離れたところからその光景を見て
気持ちが熱くなった。