私と小野くん、薫さん、そして中村先輩は駅前のお好み焼き屋さんに行った。


「いらっしゃーい」

厨房おじさんの声が元気よく聞こえた。

「おじさん、4人大丈夫?」

「お、薫ちゃんに大貴くんじゃーん
演劇部の帰りかい?」

「今日は新人ちゃんの歓迎会よん!」

薫さんはいぇーいと私の肩に腕を回しおじさんにアピールしていた。

「新人さんかぁ!
どうぞ!ゆっくりしてってね。
薫ちゃんと大貴くんは演劇部の帰りとかよく来てくるからねー」


薫さんによると演劇の打ち上げも大抵ここらしく、何でも聞いてくれるおじさんとは仲良くなったらしい。




「じゃあ、菜美ちゃんの演劇部の入部を祝いまして…

かんぱーい!!」

私たちはジュースで乾杯した。
仮入部のはずが、入部したことになってる…

演劇部に私は必要とされてるんだと思い
嬉しくなった。


「そーいえば、中村の周りに女の子あんまりいなかったねー」

「あぁ…それは、お前がいるからだろ。」

「え、何何?
私は中村のファンの子から軽蔑されちゃってるのかなー?」

薫さんは相変わらず明るく
いろんな言い方で中村先輩をからかってた。

それを中村先輩が冷たくかわしているやり取りがとても面白かった。


「中村ー
菜美ちゃんに笑われてるよー」

ドキッとした。
「ごめんなさい…
でも、なんか面白くて…

中村先輩って薫さんには逆らえない感じありますよね」

「でしょー!!!こいつとはもう3年一緒にいるけど私に勝てないから!」

笑いながら隣にいる中村先輩の背中を叩いていた。

私はまた、笑った。


隣の小野くんも笑っていた。

小野くんはため息をついて
「姉さんは中村先輩に雑なんだよ。
もっと品がある女の子になりなよ」と薫さんに言った。

「ははーん、じゃあ、翼は品のある可愛い子が好きなのね…」

ニヤニヤとしながら小野くんに言い放った。

「いや、僕の好きな人の話はどうでもいいじゃないか!」

「え、なに、翼好きな人いるの?」
またニヤニヤと薫さんは小野くんを引っかけるように話した。


すると、しまったという表情をする小野くん。
そして、赤くなってしまった。


小野くんにも好きな人がいるんだぁ…


私も気になり始めた。

「小野の好きな人、俺知ってるよ。」

「中村先輩!!!
絶対に言わないでください!!」



もう、その後は中村先輩に吐かせようと必死になった薫さんを抑える小野くん、それを見ている私。


とても楽しくてあっという間に夜になってしまった。


「おじさん、ごちそうさまー」


お店を出ると外は真っ暗。




「菜美ちゃんの家どっち?」

「私は駅とは反対方向です」

「私と翼は電車だからな…」


「あ、姉さんは帰ってていいよ。
菜美さん送ってから僕は帰るから。」

小野くんが私を送ろうとした時
中村先輩が小野くんを止めた。

「いや、俺もこっち方向だから
俺が送る。」



少し貯めてから小野くんが答えた。

「分かりました。お願いします。」

「小野もちゃんと姉ちゃん送れよ。」

「いやいや、弟に送ってもらうほどヤワじゃねーよ!
それに、送るも何も帰るとこ同じだからな」

薫さんが笑い
引っ張るように小野くんと駅に向かった。


「菜美さん、また明日!」




小野姉弟が駅に向かって行くと同時に中村先輩と二人になり急に緊張してきた。


みんなが中村先輩に家まで送ってもらう経験をしたいと思ってる。


でも、私は今現在、中村先輩に送ってもらってる。



ドキドキして何も話せず
ただ、歩いていた。


信号待ちしている間
中村先輩が私の顔を覗き込んだ。


「やっぱり、君は他の子とは違うね」


「え?…」


言葉の意味が分からず混乱した。