中村先輩はステージに戻り、部員を集め何かを説明していた。

部員の人がチラチラこちらを見てくるから
おそらく私のことだろうと思った。


「菜美さん、僕の手伝いの内容話してませんよね?」

あ、そうだった…
大丈夫かな?…

「説明すると
菜美さんが演劇を見て感じたことと思ったことを教えて欲しいです。」

「え、そんだけ?」


私はキョトンとした。

それだけならいくらでも出来る。
感想と思ったこと言えばいいだけじゃないか。


なぜ、私の役目が必要なのか気になったので聞いてみた。


「あ、それはですね…

去年の冬の全国大会で審査員の方に
『誰に魅せているんだ』って言われてしまったんです」

「え?どういうこと?…」


話を聞くと、去年の3年生は練習を真面目にしなかったらしい。
全てなんとなくでやっていた。
それでも、全国大会には行けたけど

脚本も演劇も何を伝えたいのか
感動させたいのか、笑わせたいのか分からないと言われたらしい。


そこで、中村先輩が
部員じゃない人に一時的に『仮部員』になってもらうことにしたらしい。


「…それで、今までも何人か頼んだんですけど
僕となかなか合わなくて…

菜美さんなら、話しやすいし感受性豊かだし、とっても…素敵だから…

ごめんなさい!

僕がもっと他の方とうまく合えばいいんですけど….」


小野くんは部員の方を見て
私の方を見て、悲しい目をしていた。
きっと申し訳ない気持ちがあるんだろうと思った。

「小野くん、私でよければ力になるよ
これからも部活がある時は毎日!」

「ほ、ほ、ほんとですか?!

ありがとうございます!!!」

小野くんはとても喜んだ。
とっても、嬉しそうだった。



脚本家のプレッシャーもあったんだろう。
みんなに申し訳ない気持ちと
中村先輩にも申し訳ない気持ち
そして、私にまで気をつかってくれた。


ほんとに、この子は優しい子なんだなぁ…

小野くんを見ながら
笑がこぼれた。


「菜美さん、どうかしました?」