自動改札が無いので駅員に定期を見せる。ICカードの場合どうするんだ?見落としただけで読み込ませる所があるのか?


後ろには片側二車線の道路が広がっている。
しかし、メレンダについて行くと古民家が見えてくる。


「あ、お味噌汁の匂いがする。でも今はこれの気分じゃない」


「何の気分?」


「甘いものの気分!」


そう言って無邪気に笑った。
可愛くて、今まで体験したことがない感情に包まれた。胸の鼓動が高鳴る。


不意打ちだった。
音楽以外であんな衝撃が走るとは……。


橙色に染まる空の下でメレンダは語る。


「うまみ、も好き。食べ物はほとんど好き。でも甘いものが一番好きなの」


メレンダは夕焼けの下でくるくると回る。
まだ断定は出来ない、一日ではわからないと言い聞かせる。


「ねぇ、緋梅さん」


「緋梅とか昇でいいよ。その他でも……」


「じゃあ、フィウメでいいかな?」


メレンダといいフィウメといい、由来は何だ?
でも良いかもしれない。折角メレンダが考えたのだ。


「いいよ。じゃ、こっちの道を行くからこの辺で。また明日」


「フィウメ、また明日ね」


橙色の光に照らされたメレンダが手を振る。
少し照れくさいな。
しかし、また明日、が聞けて安心した。明日も話しかけていいのか。


この感情の答えを出すのはまた明日。不意打ちの魔法が解けてからだ。