今日もまたメレンダと一緒に帰る。
メレンダはチョコバーを食べながら相槌を打つ。口元に付いたチョコが、ぽろっと落ちそうで落ちない。


「メレンダ、ここにチョコ付いてる」


自分の顔を指差して示す。


「んっ」


メレンダはなめ取ろうとする。しかし、なかなか取れない。


「こっち向いて」


ポケットティッシュを一枚取り出し、拭き取る。


「もったいない……」


メレンダは残念そうにうつむいた。


「ああするしかなかった。あのチョコのことは忘れるんだ」


ティッシュをひらつかせて言った。


「うん。いつまでも過去に囚われてはいけないね……」


前を向き、残ったチョコバーを食べ始める。


「あのさ、何で僕がフィウメだと思ったの?」


フィウメ、を検索してみると、遠く離れた港湾都市の画像が出てきた。
フィウメはイタリア語での呼び名らしい。リエカには大きな港ときれいな教会があった。おしゃれな家が並び、こんな家に住んでみたいと思った。
しかし、よく見ると白くて四角い箱がそびえ立っている。


僕はこんな綺麗な人間ではない。
中途半端で、もう成長は見込めない。終わりかけの人間だ。


「思い浮かんだだけよ。フィウメしかあり得ないと思っただけ」


「そうか」


はっきりとした理由はないらしい。ふんわりしていてなんだか落ち着かないが、優しい声が心に沁みた。
メレンダがすたすたと先行したと思ったら、僕の方に振り向いた。


「メレンダ、はイタリアでの午後のおやつ」


食べているうちにくしゃくしゃになった袋の端を引き、ぴっと伸ばした。
初耳だ。昨日、メレンダの方は調べていなかったのだ。


「イタリアが好きなの?」


「うん、旅行に行ってから好きになったの」


きっと、こんなことを聞けたのは僕だけだ。
メレンダは他の人の質問は上手くかわしていた。


僕だけ、か……嬉しいな。