捨てられなかった想いを、今

「はやく誰かと付き合ってくんないと俺が期待しちゃうから」



塩尻さんには聞こえない声でこっそり俺に話す。



「じゃあ……俺もチャンスもらう」



今誰もいないなら。
あの頃出せなかった勇気を出せる瞬間があるなら。
いま使いたい。

塩尻さんのことをずっと好きだったわけではない。
でも、今この仕事をしてるのも塩尻さんの言葉からだから。
だからふとした瞬間によく思い出す。



「塩尻さん、少し話していけないかな?」



勇気をだして、そう塩尻さんに話す俺に彼女の目はどんどん見開いていく。



「なん、で……?」



戸惑いの声を発する。



「──濱田くん、声がすごくいいよね。声優なんて向いてるんじゃないかな?」


「え?」



突然わけのわからないことを話し出した俺に首を傾げる。



「塩尻さんが俺に言った言葉だよ」


「え!?あたし!?」



塩尻さんの何気ない一言だったかもしれない。
でも、好きな子に言われた言葉はその後も忘れるわけなんてなくて。