しかし、先輩の手にチェンソーはなかった。


チェンソーの音がする方へ視線を移動させると、暗闇に紛れるようにして小さな女の子が立っているのが見えた。


手には大きなチェンソーが握られていて、その子を見た瞬間寒気が体中を駆け巡った。


俺はジッと女の子を見る。


どこかで見たことがあると思っていたけれど、近所の子供じゃない。


帰りがけ、偶然すれ違ったあの子だ。


「冨部先輩、こんなところで何してるんですか?」


城が冨部先輩に声をかけた。


冨部先輩は目だけをこちらに向け、そして涙を流した。


先輩の体は小刻みに震えていて、よく見るとジーパンの股が濡れているのがわかった。


失禁してる……?


俺は女の子の方へと視線を移動した。


女の子は徐々に徐々に先輩との距離を縮めているようだ。


「助けてくれ……」


掠れた声で先輩が言う。