椿森は伐採され、今この椿ホームが建っている。


といってもこのホームが建ったのは5年ほど前の事だった。


元々老人ホーム建設のために椿森の伐採を始めたのだが、なにやら多々問題が起こったため今までずっと建設できずにいたらしい。


そんないわくつきのような場所に建てたって利用者なんてつかないだろう。


そう思っていたのだが、出来上がってみれば見た目はもちろん中も高級ホテル並みに綺麗で、最新の設備が整っていた。


随分と高いのだろうと思っていれば、街の人々に貢献したいという願いから立てられたため、値段は格安だった。


そうなると余計に怪しむ人たちも出ていたが、1人2人と入居者が出始めると後はもう争奪戦のようになってしまったのだ。


かくして、うちの祖母も入居する事になり、椿ホームはいつでも満室といった状況だった。


そんな事を知ってか知らずか、祖母は好きなだけ椿森の事を話。


「椿森にはどんな思い出があるんですか?」


俺が丁寧にそう質問すると、祖母は目をまぁるく見開いて「それは言えないね」と、首を振った。