「良真はそれが何の事か知らないのか?」


「知らない」


そう言い、俺は左右に首をふった。


『椿姫』なんて聞いたこともない。


「一応調べてみるか」


城がそう言い、立ち上がった。


飲み干した缶をゴミ箱へと捨てる。


「調べるって?」


「『椿姫』も『椿』って入ってるじゃないか。なにかヒントになるかもしれないだろ?」


「そうかなぁ……」


俺は地面を這っている蟻の行列に視線を落とした。


カマキリの死体に群がっている。


「せっかくここまで来たんだし、調べてみようぜ」


城に言われ、俺は重たい腰を持ち上げた。


正直城には申し訳ない気分で一杯だ。


タクシー代を払ってここまで来たのに、嫌な思いをさせてしまった。


でも、確かになにかのヒントにはなるかもしれない。


そう思い、ようやく俺たちは施設を後にしたのだった。