煉はそう言うと、私を抱き締めた。


まさか抱き締められるとは思っていなかったため、どうしていいかわからず固まっていた。


すると煉が私に優しく、そっと話し出す。



「緋莉…今、沢山泣いておけ。俺の胸を貸してやる。」



「な…んで…?氷蓮の姫だった女だよ…?なんでそんなに優しい言い方するの…?もう泣く気…無かったのに…。これじゃまた泣いちゃうよ…。」



「氷蓮の元姫だろうが、そんなの関係無い。いいから俺の腕の中で泣いておけ。」



私は煉に抱き締められたまま、声を荒げながら沢山泣いた。


煉は時折、頭や背中を撫でてくれた。


煉の優しさが私の心に染みた。



少し落ち着いてきたので、私は煉からそっと離れた。


そんな私の顔を見るなり、煉はクスッと笑う。


「緋莉、目真っ赤だぞ。不細工な顔になってる。」



「…う、うるさいなぁ。泣いたんだからしょうがないでしょ。あ、煉…ここシャワーある?シャワー浴びたい。」



「あぁ、あるぞ。浴びて来い。浴びたら出かけるぞ。」



「…え?…うん。」



出かける…?


まぁいっか。家にはアイツが居るから帰りたくないし、親もどうせ帰らなくったって気にはしないだろうし。



私はシャワーを浴び、汚れた制服をまた着た。


だって服、これしか無いもんね。


着替え…取りに行かなきゃなぁ…。



「おい、着替えたか〜?行くぞー。」



「はーい。」



煉に呼ばれた私は、付いて行き、連のバイクの後ろに乗った。



「しっかり掴まってろよ。」



「うん、わかった。」



私はそーっと煉の腰に手を回す。


煉は、勢いよくバイクを走らせた。



私は煉に掴まりながら、昴のことを思い出していた。


氷蓮に居た時は必ず昴のバイクの後ろに乗っていた。


煉は昴よりもガッチリしているのがわかった。


無意識に煉と昴を比べている自分が居た。


私は首を横に振り、もう昴のことを考えないようにしようと思った。