窮余の策でジュストベルが独自に調合し煎じたお茶を飲んだ所、不思議と症状が落ち着いたのだ。

 そうやって頭痛を誤魔化しながら聞き出せた事は、本人のハリと言う名とマリと言う名の双子の姉がいる事。その他には年齢と、恐らくルゥアンダ帝国の出身であろうと言う事。たったそれだけだった。

 ハリはこの国 シュサイラスアが何処なのか、自分が何処から来たのか、そしてどうやってこの国に来たのかさえ分からないと言った。
 ただ、姉のマリを探し出すと言う強い想いは確かなのだ。

 旧市街の路地裏で出会った時はどこか急いでいた様に思えたが、今は何故急いでいたのかその理由さえ分からない。

 常夜の国 ルゥアンダ帝国出身であろうハリは、シュサイラスア大国の習慣や文化のひとつひとつに初めて見聞きする様な驚く素振りを見せた。
 そもそも常夜の名の通り常に太陽の登らないルゥアンダ帝国は、国民の警戒心が非常に高く皆が皆そう簡単に個人情報を開示しない。
 事実、帝国の皇帝がジャコウである事の他に重要な情報は殆どと言って良いほど謎に包まれた国だ。
 重要な理由も無く一般的な観光などでルゥアンダ帝国に入国するのは非常に難しい上に、一度入国すれば出国さえ危ぶまれると言われている危険な国でもある。

 入出国の管理が厳しいルゥアンダ帝国からどんな手段を使ってこの国までやって来たのか、ハリはその記憶も無くしてしまっていた。


「──ハリって俺よりも年上だったんだな! 細いし小さいからアーサと同じぐらいだと思ってたぜ」

「あ、うん。実は俺も……まさか俺より三つも上だと思ってなくて、それで結構馴れ馴れしくしちゃってたんだけど」

 最近警備隊の活動が忙しく、久々に王宮に立ち寄ったジュリアンだったが思ったよりも元気そうなラインアーサと雑談に時を過ごした。

「まあ、いいんじゃあないのか? それで、少しは打ち解けたのか?」

「ん……もう少し、かな」

 苦笑するラインアーサ。
 と言うのも忙しく走り回るジュリアンの代わりと言うのもおかしな話だが、ラインアーサはハリを自身の側近にと推したのだ。
 理由は諸々あるが一番はハリの無に近い表情に何故か惹かれたからなのかもしれない。身辺の世話係が欲しい訳では無い。
 必要な事以外は口にせず、思いも顔に出さない謎めいたハリと仲良くなりたい。そんな単純な理由なのだろう。
 ラインアーサはそう言った性格なのだ。