終始無言を貫くのかと思わせたが、ラインアーサの問いに漸く重い口を開いた。

「……頭、痛い」

「え? 頭の傷はもう治ってる筈だけど、ごめんね。完全に治ってなかったのかも。念の為もう一度癒しの風を。あ、そうだ君の名前聞きそびれちゃって……聞いても良いかな?」

「……名、前? あっ…つぅ」

 名を聞いた途端、痛みに耐える様に眉間の前で掌を握る。

「だ、大丈夫?」

「僕に、触るな!! ま、り……万理(マリ)を、探さ……ないと」

「マリって…?」

「僕の、双子の姉……。あの内乱で離れ離れになって…っ早く、探さないと駄目なんだ!」

「っ!!」

 それを聞いたラインアーサは息を飲んだまま黙り込んでしまった。見かねたジュリアンが名を尋ねる。

「じゃあ、お前の名前は?」

「───玻璃(ハリ)

 抑揚のない声でそう答えた。

「ハリか。痛みが酷いならアーサに煌像術(ルキュアス)をかけてもらえよ」

「うっ…ぁ、っく……何だ、これ…っ」

「ま、待ってて! 今治すから」

 ジュリアンの声にはっとなったラインアーサが再度ハリに癒しの煌像術(ルキュアス)をかけた。しかし痛みは治まる所か更に増し、遂には頭を抱えて蹲ってしまった。

「痛っ……うう」

「っ?! 煌像術(ルキュアス)が効かない?」

「仕方ない、もうすぐ街の診療所に着くから無理はするな」

「でもっ」

「……はぁ、っは……ぁあ」

 目の前で酷く苦しむハリの姿を見ていられずにラインアーサはそっとその額に触れる。
 しかしその瞬間弾かれる様に手を引いた。

「っ……ぅあっ!!」

「どうした!?」

「…っ何だ今の……っ」

「アーサ?」

「……?」

 ハリを見ると先程まで酷そうにしていた頭痛が嘘の様に治まった事に困惑気味でこちらを見つめていた。

「おい、二人ともほんとに大丈夫なのか?」

「頭痛は?」

「……」

「どうやら治まったみたいだぜ」

「ならよかった…」

 ラインアーサは何でもない様に振舞っているが、左の二の腕を右手で抑え僅かに呼吸を乱していた。これはあまり良くない兆候だ。そのままジュリアンの肩へと凭れ掛かり辛そうに瞳を閉ざすラインアーサ。

「ったく。無理すんなって言ってんのに……力が暴走したらどうするんだよ」

 聞こえるか聞こえないか程小さく呟くとラインアーサの頭に軽く手を置く。

「……ありがとう。大丈夫だよジュリ」

 そうしているうちに診療所に到着したらしく、馬車は移動を止めた。