「アーサのいくじなし!!」


 王宮の中庭に凛とした声が響いた。

 たった今いくじなし呼ばわりされたのはこの国の王子、ラインアーサだ。

 ぎゅっと力一杯瞳を瞑ったまま一方の手をぺたりと地面に着き、もう一方の手で頭を庇う様な姿勢で座り込んでいる。座り込むと言うよりも後に転び、尻餅でも着いたかの様な姿勢だ。

 ───と言うのも、ラインアーサの目の前には剣の切っ先が寸止め状態のままぴったりと止まっているのだ。

 剣と言っても本物ではなく稽古用の物。

「──っ」

「おい! いつまでそうしてるつもりだ? アーサ」

「っ…ジュリがその剣を下ろすまで…」

「はあ。ったく! なんでアーサはそう逃げ腰なんだ? それでも男か?」

「か、勘弁してよ……僕、じゃあなかった。俺だって好きで逃げてる訳じゃ…」

「……じゃあなんで反撃して来ない?」

「……」

「はあー。こんなんじゃあ先が思いやられるな、一旦休憩しようぜ!」

 ジュリアンは二度目の大きなため息を吐くとラインアーサの隣にどかりと座り込んだ。

「ご、ごめんね。ジュリ…、無理言って」

「別にいいけどさ、なんで急に剣の稽古なんて言い出したんだ? よわむしアーサの癖に」

「……うう、僕……いや、俺だって強くなりたい…。弱虫のままじゃあ駄目なんだ!」

「ふーん」

「お、俺。父様みたいになりたいんだ…。強くて優しくて、この国を守ってくれてる父様みたいに」

「そっか。でも前にジュストじい様が言ってたぜ! 陛下は術力も剣の腕も半端なく超強いって。アーサ、今のお前とはまるで真逆じゃん!」

「うっ…それ、余計落ち込む…」

「あははー、ごめんごめん」

 ラインアーサの剣の腕は先程の通り。
 また何故か術力がとても弱い。本来、王族であるならば術力は高いはずなのだが。

「俺ってこんなんで本当に父様の子なのかな」

「何言ってんだよ、お前は正真正銘この国の王子だって! それに本当は…」

「? 何だよ…」

「いや、何でもない。とにかくお前はちゃんとこの国の王子で、俺はお前を守る為にいる部下なんだから別によわむしのままで構わないんだぜ?」

「さっきから弱虫弱虫って!! お、俺だって色々考えるてるんだ…、それに俺はジュリの事を唯の部下だとかそんな風に思った事ないからな! ジュリはジュリだろ?」

「はは! お前らしいってか。いや、ありがとなアーサ」