平和主義で整備の行き届いた美しい街並み。多少片田舎で長閑ではあるがリノ・フェンティスタ全土に現存する国と街を網羅し繋ぐ列車(トラン)を利用する事により、シュサイラスア大国に足を運ぶ者は決して少なくない。
 加えて民は賑やかな祭事を好み、親しみ易い気性というのも相まってか観光地としても非常に人気が高く、むしろ王都の停車場は何時でも多くの人々で賑わっていた。

 列車(トラン)から乗車客が降りきり、今度は次々と利用客が乗り込んでゆく。その様子をぼんやりと、少し羨ましそうに眺めているラインアーサ。

「よし、乗るぞ!」

「えっ! えっ?!」

 ジュリアンは掛け声と共にラインアーサの腕を引っ張り発射寸前の車体に乗り込んだ。間髪をいれず発射を告げるベルの音と共に扉が元気よく閉まる。
 青ざめた顔のラインアーサをよそにゆったりと列車(トラン)が動き出した。

「っ…! ちょっ、どうするんだよジュリ!!」

「どうもこうも? 気が済んだら折り返せばいいじゃん」

「俺はもう気が済んだ! 次の停車場で折り返す!!」

「はいはいっと。とりあえず席に座れば? そこの座席空いてるし、せっかくだから楽しもうぜ」

「…っ」

 何かを言いたげなラインアーサを強引に座席へ座らせ窓を開ける。開け放った窓からは爽やかな風が入り込み気分は上々。本格的に速度を上げ始めた列車(トラン)はまた鋭い汽笛を鳴らした。

「すんごい音だな! こんなに間近で汽笛を聴くと耳がおかしくなりそうだ」

「……じゃあ窓閉めとけばいいだろ?」

 ラインアーサが少し呆れたように笑うが、ジュリアンもにやり。

「ふふん、感謝しろよ? 本当はお前だって乗りたかった癖に〜」

「なっ! それは、そうだけど。でも! ちゃんと次の停車場で折り返して午後の授業に間に合う様に戻るからな?」

「りょうかい〜」

 気のない返事を返し、車窓から飛んでゆく景色を楽しむ。本日も見事な秋晴れ。観光客や親子連れ、様々な乗車客が各々旅を楽しんでいる。

 普段王宮に居ては見られない美しい景色に夢中になり、たっぷりの日差しを受けた座席に座りもせず窓に張り付くジュリアン。
 観光名所でもあるカスカダ滝の上を通過するとの車内案内に機嫌よく振り向くといつの間にかラインアーサは座席に凭れて居眠りをしていた。

「おーい……寝ちゃった? もうすぐカスカダの滝だってよ!」

「ぅ…ん」

 声をかけても開きそうにない瞼。