「んー? アーサだって俺の事愛称で呼ぶじゃん!」

 すかさずジュリアンが反応する。

「それはジュリが初めにそう呼んでって言ってきたんだ! それに呼びやすいからジュリはジュリのままがいい…」

「まあ、俺はそう呼ばれるの好きだしな! 愛称って何かすごく親しみ湧くだろ? 特別感があるって言うかさ」

「たしかに父様たちもお互いに愛称だけど…じゃあ真名は何の為に? うーん」

 ラインアーサは小首を傾げながら唸った。

 実際、ライオネルやジュリアンがラインアーサを 〝アーサ〟 と呼ぶのは親しみと愛を込めて呼んでいるからだ。
 むしろそれが定着しつつあり、民の間では既にアーサ王子で通っている。

 教育係のジュストベルは真名の意味を重んじて愛称ではなく、ラインアーサ〝大地と天球の分け目を引き結ぶ主線〟と呼んでいるのだった。

「てかさ、俺らはいいけどアーサたち王族はあんまり一般的に真名を名乗らない方がいいんだよ。特に国外では」

「なんで?」

「警戒は常に怠るなって事。王族ってバレたら何されてもおかしくない世の中なんだからな…」

 珍しく尤もらしい意見を述べたジュリアンに面を食らっている様だが、ローゼン家を護ってきたアダンソン家の男としては当然の考えだ。

「だったら俺はもう既にアーサで通ってるんだからあんまり意味が無いような……それに、リノ・フェンティスタは、、この世界は誰もが平穏に安心して暮らせる理想の世界なのに…」

「一応な。万が一って事もあるかもしれないだろ! じゃあそれこそアーちゃんってしとけば王子だってバレないぜ?」

「ジュリお前なぁ…!!」

「冗談だって! くくくっ…」

「ああっ逃げたな? 待てよジュリ」

 そう言い残して逃げる様に走り出したジュリアンを追いかけるラインアーサ。

「ふふ、本当に仲良しねあの二人は。ね、リーナ」

「はいっ! 兄とこんなにも親しくしていただいてとっても嬉しいです!!」

「そんなに改まらなくてもいいのよ? あなたもジュリも私たちの家族なのだからね?」

「っありがとうございますイリアさま! あたしこれからもっとがんばりますね!! イリアさま専属の侍女になれるように!」

「もちろんよリーナ! 頼もしいわ」

 ジュリアンとラインアーサはそのままこの広々とした庭園の間を隅から隅まで何周か走り込んだ。

 この後もう一度汗を流しに浴場へと向かう事になるのは確実だろう───。