扉を開け部屋に招き入れようとしたが、ジュストベルは瞳に悲しみの色を讃え、ジュリアンを見据えたまま動かない。
 何か嫌な予感がする。

「迎えに来ました。今すぐ王宮に向かいます。ですがその前にこちらの衣服に着替えてください」

「……わかった」

 大人しくジュストベルに手渡された灰色の慎ましやかな上下に袖を通す。上着の胸には喪章が付けられており、よく見るとそれはジュストベルの胸元にも付けられていた。

「っ…じい様……これって…」

「いいですか、ジュリアン。決して涙は見せてはいけません。堪えるのです」

「堪えるって、何を…」

「───昨日、エテジアーナ様がご崩御されました」

「嘘だ……そ、んな」

 イリアーナが行方不明になり、そのままずっと床に伏していたエテジアーナ。
 ジュリアンも何度となくラインアーサやリーナと共に見舞いに足を運んだ。その折は顔色も良くサリベルの看病や侍医達の治療により徐々に回復に向かっていると聞いていた。
 しかし昨日未明に容態が急変、危篤状態に陥った。
 そして陽が高く登り切った正午過ぎ、ライオネルとラインアーサに見守れながら眠る様にこの世を旅立ったのだ。


 王宮の大広間にはエテジアーナの祭壇が設けられており、めいっぱいの花で飾られている祭壇の前にラインアーサの姿があった。見慣れない真っ黒な喪服のせいか、いつもと違った雰囲気を纏っている。
 それでも、まるで悲しい夢でも見ているかの様な顔のラインアーサを見た瞬間。目頭が熱く視界が歪んだが涙を落とさない様に何とか堪えた。
 ジュリアンは心底後悔した。主が本当に辛い時にまた傍に居れなかったのだ。力になる、守る、そう心に決めたは良いが結局何一つ出来ない自分に呆れ返るほど腹が立つ。

「ジュリ。来てくれたんだ」

「っ…当たり前だろ」

 落ち着きのある声だがそれがかえって痛ましい。

 普段は誰よりも明るく、この国の太陽の如く皆を惹きつける存在のライオネル。一見穏やかだが、時折表情の裏に湛えられている深い悲しみに耐えきれず、赤く泣き腫らしたであろう瞳を固く閉じる。

 ジュリアンはラインアーサと共にエテジアーナの祭壇に真っ白な花で編まれた冠を捧げ、祈った。サリベルもリーナもジュストベルも王宮の者が皆、祭壇に献花する。

 深く哀悼し、安らかに旅立てる様にと。


 そうしてエテジアーナと最後の別れの儀式を終えた。