うちの母さんが、連絡しようかと言っても、お家まで送ると言っても、珠理は頑なに断った。絶対に帰りたくないと言った。
どうすればいいのか迷った母さんは、車に珠理を乗せて、そのままうちへ一旦連れて帰って。
『2人とも、まずはお風呂に入って来なさい』
そう言って、2人分の着替えを渡してくれた。珠理のは、学校の体育服だった。すぐに帰っても大丈夫なように、だったのかもしれない。
お風呂に入っている間、母さんはきっとなんとかして、珠理の母さん…サユリさんに、連絡を取ってくれたのだと思う。
その間、俺は珠理と一緒にお湯に浸かって、ずっと話をしていた。
『お前、あんなとこで何してたんだよ。突然歩いてるやつ見えたから、ビックリしたわ!!あ、俺は陸奥近海って言うの。2組!タキザワセンセーな!』
『オーミ…?』
『そっ!オーミ!呼び捨てでいーよ!』
当時から、綺麗な顔をしていたと思う。少し青みがかかった目は、外国人みたいだと思った。でも、どうやらお母さんは日本人で、お父さんがハーフらしい。納得だ。
『お前、腹減ってない?今日のうちの晩ご飯、唐揚げなんだよ!母さんのご飯、めちゃくちゃ美味しいから食べていけば?』
『…唐揚げ…? って、なに?』
『ハァ!?お前唐揚げ知らねーの!?人生、損してんな〜〜!』
この日は、あまりよく分からなかったけど、少しずつ、珠理の家庭の事情を知っていくことになる。
珠理は、お父さんに似てるってこと。そのお父さんのことが、大嫌いだということ。お母さんのことを、自分の手で守っていきたいと思っていること。
時間をかけて、ゆっくりと、俺は美濃 珠理という人間について、理解していった。