「な、なんだよ突然。わけ分かんねぇ」


突然の悪口に、頭がついていかない。なんで?この短時間の間に、茶々に何が起こった?つーか、俺に何か起こった?


「近海は!いっつもそう!キレーなお姉さんには弱いじゃない!!ヘラヘラしちゃって、バカみたい!!」

「ハァ〜!?」


なんだコイツ、ヘラヘラって。そんなことしてねぇ。キレーなお姉さんに弱いっていうのも初めて聞いたわ。俺自身のことだとしたら、絶対チガウ。心から拒否できる。


「どうせ大学生になって、また色んな人たちと遊んでるんでしょ!今日は茶々が来るってのも分かってたのに、なんで!」

「遊んでねーよ!それから紀伊さんはバイト仲間!この間写真見せただろ!」

「付き合ってるって言ってたじゃない!」

「だーから、冗談だって言っただろーが!あの人彼氏いるから!いっつもあの冗談言われるんだよ!」

「冗談言われるのも近海が許してるんでしょ!ほんっと軽い!そーいうとこ、ほんとに嫌い!昔から、きらい!」


売り言葉に買い言葉。幸い、人通りが少ない時間帯でよかった。授業をやっていない時間でよかった。

廊下に響く声を、多くの人に聞かれたらたまったもんじゃない。


それでも、やっぱり、今回ばかりはプチンときた。

『軽い』って、また言いやがった。そりゃあ、昔からの俺を知ってるならそう言われても仕方ないけど、でも…。



「…お前だって、右京くんとじゃれ合ってばっかじゃねーかよ」



この日は、我慢できなかった。

色々と積み重なってきた、少しずつ固まってきた黒いもやもやが、またじわじわと煮立ってきて。

まるで、どろりと溶けた粘土のように、地面を這うような、そんな声に変わって、口からこぼれ落ちる。