「…近海さん、先日はどうも」

「…」

茶々と初ちゃんが、少し先を歩きながら、試験会場がある棟に向かっている途中。俺の隣で歩いていたウキョウくんは、そう言って笑った。

相変わらず、意味深な顔。なんだよその顔は。なにが言いたい。


「こちらこそ、ドーモ」


妙な競争心を向けられて、フツフツと先日と同じ思いが湧いてくる。

胡散臭い笑顔。これは、珠理と似ているとは言えない。アイツは、こんな顔はしない。ちゃんと、笑っている顔をする。


「近海さんって、ちゃっちゃんと中高が同じなんですよね?」

「そーだけど。何か問題でも?」


ウキョウくんは、やっぱり高校は違うらしい。隣の高校だ。制服はよく知ってる。私立を推している高校だから、ウチの大学を受ける理由はよく分かった。


「ちゃっちゃんって、近海さんに懐いてるな〜って思っただけです。最初、お兄さんか何かかと思いました」


ニコ、と、胡散臭い笑い、2回目。
懐いてるとか、この間俺が感じた気持ちと同じすぎて吐き気がした。思い切って、脳内からかき消す。


「でも、違うんですよね。近海さんは、ちゃっちゃんのこと、可愛いとか思ってます?」

「……は?」

「俺は思ってますよ。ちゃっちゃん、俺が今まで出会って来た女の子たちの中でもダントツで可愛いです。顔だけじゃなくて、中身も。なんとなく、放っておけない感じとかも、すげー可愛いです」

「…」


…これは、宣戦布告をされているということなのだろうか。

こんなこと言われて、言い返す方もどうかと思うけど。でも、俺の気持ちも分かってるのを前提としか思えない。それとも、警戒されているのか。


「ははっ、無視ですか?」


誰だよ、こんな奴のこと、珠理に似てるとか言ったやつ。見た目と、雰囲気だけじゃねーか。


「…そーいうことは、試験とか全部終わってから考えた方がいいんじゃねーの。頭湧いてっと、失敗するよ」

「はは!そうですね、そうします。気をつけます」

「…」


…茶々が可愛い。
そんなの、俺だってとっくに知ってる。

顔はもちろん美少女だ。でも、それ以上に、茶々が可愛いことを俺は知ってる。

放っておけないくらい、弱いところがあることも、知ってる。


むしろ、そんなところしか見てこなかった。


「…近海さん、余裕ですね」


余裕なわけがない。余裕なんて持ったことがない。

茶々を好きになって、一度だって。