「…わかんね」
近海に会いたい、じゃあないんじゃないかって。
本当は、“ 珠理 ” に会いたいんじゃないかって。
時々すごく、自分が女々しくて嫌になる。こんな風に思いたいわけじゃないのに。きっと、茶々だって、そう思っているわけじゃないのに。
「…バイト、ある?」
「さあ、どうだったかな。その前に、授業もあるし、忙しいんだよ、俺だって」
この間から、なんなんだろう。自分が気持ち悪いくらい、おかしくなっている気がする。
——『より深まる。安心しろ。』
こんなん、何にも深まっていく気がしない。茶々とは、離れていく気しかしない。
今、茶々のそばにいる男が、俺にとってのトクベツな存在である珠理に似ているという、それだけで。
こんなにも、イライラするとは思わなかった。
「…近海、今日はすぐに寝てね。疲れてる」
「うん、ありがとう」
茶々が、心配そうな顔で俺を見た。きっと今、ひどい顔をしているんだっていうのが分かる。
茶々に、気を遣わせてしまっているんだって、分かる。
「…近海、」
「うん?」
「あたし、頑張るから。もう少し、頑張るから」
ぎゅっと捕まれるコート。シワが寄るその左胸を見ていたら、少しだけ目が覚めた。
…なに、不安にさせてるんだろう、俺は。
「…茶々、手出して」
「え?」
「いーから」
ポケットに突っ込んでいた左手を取り出した。ずっと握りしめていた、さっきの鳩みくじの鳩の御守りを、目の前に出してみせる。
「…見ないで引いたら、もも色だったんだよね。なんかお前っぽいから、やる。俺、大吉だったし」
「…! かわいい!茶々、黄色しか持ってなかった!」
「…ふ。これ、ずっと握りしめてたから。俺の力が宿ってると思う」
ちゃんとした御守り、買っておいてやればよかった。
なんて、今更後悔しても、遅いか。



