「別に、違わないけど」
多分、寝てないから、若干テンションが低めなんだ。眠いから。
そう言ってあげたら、茶々は少し安心した顔をした。
「…それより、なんか楽しそうでいいね。塾の時間もいい具合にストレス発散できんじゃねーの」
「楽しそう?」
「うん。ウキョウくんとも、仲よさそうだし」
「…」
あぁ、どうしても、声がいつもより低く出てしまう。やっぱり、帰ったら死ぬほど寝ないとダメだ。
茶々にようやく会えてるってのに、どうも、気分が上がらない。
「右京くんはね、ちょっと、珠理に似てるんだ」
放たれた言葉に、完全に身体が固まった。
——『珠理』。
その名前が、今出るとは思わなかった。まさか、ウキョウくんから、派生するとは、思わなかった。
…ううん、違う。
本当は、俺だってちょっと思ってた。
ウキョウくんが、少しだけ、珠理に似ているということ。
「同じ大学を受けるの。あたしと、初と、右京くん。今度、K大まで見学に行くから、その時も3人で見にいくね」
「…あっそ」
「近海にも、会えるかな」
「……」
“ 近海にも、会えるかな ”
この言葉が、普段の俺だったら、きっと真っ直ぐに刺さって、そのまま喜びに変わっていたんだと思う。
茶々にそんなことを言ってもらえるのは奇跡だ。
きっと、すぐに、“ 会いにいく ” って言っていたと思う。
…でも、ごめん。この時は、違ったから。



