思えばこの時に、明確に思ったのかもしれない。

自分の手で、茶々をしあわせにしたいって。自分が、彼女の中にある珠理を超えられたらって。


『…ごめん、ありがとうオーミ…』


しばらく、茶々を腕の中におさめていたけど、それは彼女の方から解かれた。俺がたくさん動かしたせいで、髪はボサボサだ。


『…ごめん、俺のせいだわ』


髪ゴムをとって、ツインテールにしていた髪を手櫛で解く茶々に謝る。

『いーよ。近海は悪くないし。どうせ、取るつもりだったから』

『…』

にっこりと笑う茶々。少しだけ、明るくなった声。もう日も暮れて真っ暗だったのにその表情(かお)はしっかりと俺の方を見ていた。


たまらなくなって、その髪に触れた。さらりとしたその感触は、まるで絹のよう。


『…なに?』


瞳と同じ色。今の空と同じ、漆黒の髪色。


『んーん。それより、お前ふたつむすびもいいけど、ひとつに結ぶのも似合うんじゃね?』


ギュッと、長い髪の毛を1つに束ねて見せた。
…うん、かわいい。


『ポニーテールってこと?』

『そう。たまには、違うのもいいじゃん。気分転換は必要だと思うよ』

もちろん、2つに結んだのだって、似合っている。それが茶々のトレードマークみたいなものだ。でも、この時は少し、今の茶々を崩したくなった。俺の力で、変えてみたくなった。


『…明日、ちゃんと学校来いよ。1つに結んだとこ、俺に見せて』


彼女が、明日ちゃんと、俺たちのところに来れるように。少しだけ、約束をして。

それからほんの少し、俺の思い通りになればいいのにって、かっこわるい願いも込めて。


『…ばかじゃないの』


照れくさそうに目をそらす彼女の髪を、やさしくほどいた。掴んでいた左手を離すと、簡単に解けて彼女の顔を包む。

その一瞬の動きが、とてもきれいだった。


――…彼女は、次の日、少し照れながらポニーテールの髪を見せてくれた。