どうして茶々が電話してきたのか。それは容易に想像できた。


『お前、今どこにいんの?』

『…家』

『ひとり?』

『うん』

『今から行く。待ってな』


いつもなら、なんで来るのとか、来なくていいとか、そんなことを言われるのに。その時は、違ったから。だから茶々も、珠理とめごちゃんのことを聞いたのだと、すぐに分かった。

早く、行ってあげなきゃと思った。




家に着いて、外に呼び出すと、まだ制服姿の茶々が出てきた。表情はふつう。落ち込んでいる様子もない。この時、俺たちはすぐに話すことができなかった。

茶々だってきっと、複雑な想いがあっただろうし、俺だってなんて声をかけてあげればいいのか分からなかった。

だから、ただずっと手を頭の上に乗せて、ぐりぐりと動かした。

ずっと静かだったのに、そのうちぽたぽたと透明なしずくが落ちてきて。慌てて隠すように、茶々は足先で地面に落ちたそれをぬぐった。


…茶々の気持ちは、驚くほどよく分かる。ひしひしと伝わってくる。

どうにかしてあげたかった。でも、気持ちはどうにも変えられないことを俺は知っているから、くるしかった。


『…お前は、すげー頑張ったよ』


そういってあげるのが精一杯だった。


『…めごと珠理、ちゃんとうまくいくといいなぁ』

『うん、うまくいくよ、絶対』

『めごも珠理っも、ちゃんと幸せになるかな』

『…ん、なるよ』

『…そっかぁ』


溢れるように涙を流す姿を、俺は今でも忘れない。


『絶対大丈夫だから。お前が今まで大切にしてきたこと、全部力になって、あいつらを支えるよ』


少しずつ、身体を引き寄せた。頭をなでているだけじゃ止められなかったから。

首の後ろに腕をひっかけても、そのまま俺の胸におさめても、茶々は何も言わなかった。


ずっと黙って、そのまま静かに立っていた。