中学2年の秋。

茶々は、珠理と付き合うようになってからも、泣いていることの方が多かった。

わんわん泣いたり、しくしく涙を流したりするのかと思いきや、唇をぐっと噛んで我慢しながら、ポタポタと涙を零しながら泣く。

強気な奴だから、本当はプライドが許さないのかもしれない。それが我慢できずに、溢れてしまったということなのだろう。


初めて茶々の涙を見たのは、あいつらが付き合って1ヶ月も経たないくらいだったと思う。

昼休みにトイレを済ませようと廊下に出たら、そこには茶々もいて。同じ階に教室があったから、偶然出会ったのだろうけど。

なんだか晴れない顔をしていたから、俺から声をかけた。


『…お前、何してんの?』


2つに結ばれた髪が、てろんと下に落ちていた。
しばらく待っても返事がなかったから、横から顔を覗き込んだ。

すると、唇を噛み締めて、目に溢れそうなほどの涙を溜めている茶々が目に入って。


『———…』


…たまらなくなって、着ていたカーディガンを、頭から被せたのを覚えている。


『…来いよ』

『…』


返事をしない茶々の腕を引いて、近くの出入り口から、中庭に連れ出した。



その時もやっぱり、珠理のことを想って泣いていた。


『…なんで、そんな辛いのにアイツと一緒にいたいわけ?』


誰もいない、校舎の影になっている場所で、被せていたカーディガンをとる。茶々は、まだ静かに泣いていた。


『…珠理は、ずっと好きな人がいたんだよ。茶々ちゃんに会う前から。それはアイツから聞いてんでしょ?それなのに、なんでそこまでして付き合いてーの』


…想いをぶつけてくる茶々を、珠理は何度も断っていたのを、俺は知っている。
珠理には、どうしようもなく好きな人がいることを、俺は知っている。

それなのに、なんで。