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「あ、そうだ。お前この後空いてる? 珠理たちが、お祝いパーティー開こうって言ってんだけど」


大学を出て、駅へと向かう。となりでガッチガチに緊張した顔をしているのは、たぶん、俺が何気なく手を引いているからだと思う。

…こんなことで赤くなられるとは。もうキスだってしてんのに。


「だ、大丈夫…。めごたちにも、会いたいし…」

「本当に? お前を泊まらせるわけにもいかねーし、珠理たちも帰ってるらしいから、このまま鎌倉戻るけど? 東京、見ておきたいとこあるなら言えよ、連れてってやる」

「…いい」


今日は、ハニーブロッサムでパーティー。久しぶりに5人で集まれる日。その前に、少しだけ2人の時間があってもいいと思ってはいたのだけれど。


「…し、し、4月からの楽しみに、取っておきたいっていうか……」


眉間にしわを寄せながら、なんとも言えない顔つきでそんなことを言うもんだから、思わず吹き出して笑ってしまった。


「なっ、なんで笑うの!?」

「ははは…っ、ふ、うん、そーだな」

「なによ!?」


4月から、いくらでも時間はある。そんな風に思ってくれたことが、うれしくて。


「…お前ってもう、昔からほんと反則だな…」

「近海はこの間からキモさが増してるわね」

「お前のせいだ、バカ」

「なんか、めごと付き合い始めた時の珠理みたい」

「やめろよ、あんな風には絶対ならねーから安心しろ」

「いや、だからもうなりかけてるんだってば…」



1日でも早く、そんな日が迎えられたらいいなんて、そんなことを、考えていた。


ハァとため息をつく茶々を見つめる。呆れられている。それでも、どこか安心したようなため息だ。色々、安心できたのかと、こちらもホッとする。


「…茶々、」

「うん?」


鞄から、あるものを取り出した。茶々にひどい告白をしてしまったあの日、茶々のために買っていたマグカップだ。


「…やる。合格祝い」

「えっ!?」

「向こう着いてから開けろよ。それから、こっち来るときにちゃんとそれももってこい」


…やっと渡せた。こんなにも遅くなってしまった。でも、今となっては、どうでもいい。


「…あっ、あ、ありがとう…」

「ん。いーよ」


茶々が、ちゃんと隣にいてくれているから、どうだっていい。