俺も同じように、茶々の頰に触れた。初めは指先だけだったけど、もっとって欲が増して、手のひら全体で包んでやった。


「…つめてーな…」


まだ、ほんのりと赤い頰。顔全体は冷たいのに、やっぱりそこだけは、熱を持って熱かった。

黒い瞳が、長い睫毛が、全部俺の方に向けられている。何度瞬きしても、俺を捉えているそれに、ぎゅっと心臓を掴まれた。


「…こんな近くにいると、本当に風邪うつる」


ぼーっとする。身体が、ふわふわと浮いているようで。


「そんなに、ヤワじゃないって言った」

「……、どーだか」


今、自分の体調がどうだとか、茶々にうつしてしまうかもとか、卒業式とか結果発表とか、そういうことは、考えられなかった。

やっぱり、俺はどこまでもダメな男だと思う。

ただ、彼女が俺の方を見つめてくれるのがうれしくて、見たこともない顔を、背けないで向けてくれることが嬉しくて。


気がつけば、吸い込まれるように、彼女のくちびるにふれていた。


「……近…っ」


驚くほど温かくて柔らかいそれが自分の肌に触れた時を合図に、たまらなくなって肩に手を回した。

高ぶっていた。こんな自分を、俺自身も今まで知らなかった。


「…っは、」


交わった吐息が、火傷するほど熱かった。
ただ、ふれただけなのに。


「…さすがにこれ以上は、マズイと思う…」

「……っ」

「色々とマズイから。ほんと、帰ろ」

「…っ、はい…」


薄暗い玄関で、2人して口元を押さえながら下を向いた。

別に、初めてのキスじゃない。だけど、ここまで恥ずかしくなるとは思わなかった。

…全然ちがうんだ。ほんとうに。


「…んじゃ、本当にバイバイな。次、こっち来るときは連絡して」

「う、うん。またね」

「おう…。またな」


茶々が、玄関のドアを開けて、階段を降りていった。
勢いよく入ってくる冷たい風が、今の俺にはちょうど良かった。

火照った身体を、冷ましてくれる。動き出して止まらなかった心臓を、静かにさせてくれる。


「…想像以上だわ、これは」



…その日、茶々からはちゃんと5分後に連絡がきた。

「着いた」という、いつものようにぶっきらぼうな内容のメッセージ。

それに安心して、息を吐きながらベッドに横たわっていると、もう一度、追いかけるように受信音が鳴って。


「甘すぎ!!」



…そんな、素直じゃない彼女らしい言葉が、可愛らしいハートのスタンプと共に、送られてきた。